「極右勢力」乱立で何が起きるか 日本国民党情報宣伝局長 金友隆幸

欧州も驚愕した日本の「極右政党台頭」

 第二十七回参議院議員選挙の結果は日本史上に残る劇的なものとなった。

 選挙期間中にもかかわらず、マスコミと左翼勢力は「排外主義の煽動が拡大している」として、特定の政党・政治団体や候補者を名指しで指摘し、「反排外主義」「極右政党台頭の危機」とキャンペーンに等しい宣伝や選挙妨害をおこなった。

 しかし、その思惑に反して言うべきか、彼らの「逆宣伝」のおかげと言うべきか、日本で「極右政党」が躍進する結果となった。

 イギリスの公共放送であるBBCは「参院選で極右政党が台頭」(二十二日)、「日本での極右の台頭」(二十九日)と立て続けに報じ、欧州メディアも「右傾化、反グローバルの潮流が日本にもやってきた」と報じた。

 欧州などで言われる「極右政党」の主な定義では、

「移民の受け入れに強く反対する。伝統的な価値観や文化を重視し、それを守ることを主張する。グローバル化や国際化に反対し、自国の文化や経済を守ることを主張する。既存の政治体制に否定的」とある。この定義に基づけば今回の参議院比例代表に出馬した参政党、日本保守党、NHK党、日本誠真会、日本改革党は「極右」と言い得る。

 

有権者の二十%が「極右政党」に投票

 さらにこれら五党の比例代表総得票数を合わせると約千百四十七万票という凄まじい数字に達する。比例代表の有効得票の総計が五千九百十八万票なので、総得票の実に二十%が「極右政党」に投票されたという結果になる。

 また、比例代表候補ではないが、東京都、埼玉県において「極右」と定義し得る候補者らが供託金奪還を果たした事実も大きい。

 本紙先月号で、尼崎市議会議員選挙(六月十五日投開票)で、「反移民勢力」の得票が十一%を超えた事を報じたが、わずか一ヶ月で更にその数が倍になった事になる。すさまじい急増ぶりといえよう。

 私は過去に、本紙令和元年十月号において、「統計的数字に基づく右派政党国政進出の展望」と題した記事で、外国人移民の増加が「極右政党」の支持率に比例するとして、在日外国人の増加速度と国政選挙制度を勘案し、「外国人人口比が二・七二%に達するとみられる令和十年の第二十八回参議院選挙」が分岐点になると予測した。

 ただし、「外国人移民の増加率が加速したり、平成二十年の北京五輪長野騒乱事件や、二十二年の尖閣諸島支那漁船衝突事件のように大きな衝撃を与える事件が起きて、世論が急速に高まれば更に転機は早まる」とも付け加えた。

 

予測よりも早く巨大な「極右台頭」

 本紙令和五年八月号でも、百田尚樹氏の「日本保守党」結成について、平成の右派政治運動の挑戦と挫折の繰り返しを踏まえ、「また歴史は繰り返されるのか」と否定的な予測だった。

 しかし、私の予測よりも早く、より巨大なものとなって「極右政党台頭」が現実となった。しかも一つの党ではなく、複数の勢力が大きな支持を得て、群雄割拠するという昭和や平成では考えられなかったような事態が起きた。

 なぜこのような急変ともいうべき政治的変化が起きたかという要因の検証は他に譲るとして、今後、何が起きるのかを考えてみたい。

 

「極右」乱立で何が起きるか

 極右政治勢力が一党ではなく、複数乱立することによって日本の政治風土はどう変わっていくのだろうか。

 「外国人優遇やめろ」「迷惑外国人の追放」という巨大な民意を受けて、外国人問題はある程度「改善」に向かうと考えられる。

 しかし、これら極右政党・政治勢力のほとんどが党員の投票、総会によって組織の意思決定をおこなう「党内民主主義」を有していない。党内に「党員による民主主義」が無ければ、党員の言う事も聞かないのだから、国民の言う事に耳を傾けるかどうかは非常に疑問になって来る。これらの党の政治家が「独裁」「暴走」と言われるような言動に走る事態も警戒すべきだろう。

 また、一部においては不正確な事、科学的に根拠が薄弱な主張や、「陰謀論」と捉えられるような主張も少なからず見受けられた。煽情的な主張や情報発信は大衆の耳目を引くが、その結果、政治が誤った方向に向かってはならないので、注意と自省が必要になる。

 また、複数の勢力が乱立した事によって、それらの勢力が前向きな協力に向かうのなら非常に良いことだ。

 しかし、その逆に、お互いに相手を貶めて足の引っ張り合いをする事態になるのが現実的だ。

 そのお互いの足を引っ張り合う論点も想定できる。

 まず一点は今回の参院選の争点ともなった「外国人問題」だ。「実は、あの党は外国人に寛容で売国的だ」「うちの方が外国人問題に強硬だ」といった分かりやすい強硬政策競争が起きる。そうなった時、片親が外国人の人や、外国人を配偶者とする日本人同胞が攻撃の対象とならないか心配だ。

 

絶対に避けるべき皇室の政争利用

 もう一点は皇室のことだ。自己の政治的主張や政争の為に皇室を利用する行為だ。

 今回の参院選においても、「極右政党」の代表者の皇室に関する発言が切り抜かれ、「不敬だ」「皇統断絶だ」といった煽動的なショート動画が多く出回った。こうした事から今後も、乱立した勢力が相互の政争に皇室を利用する可能性は極めて高い。

 過去を振り返れば、昭和五年、民政党の浜口雄幸内閣が批准したロンドン海軍軍縮条約締結を巡り、政敵の政友会と海軍軍令部は「天皇の統帥権を干犯した」として浜口内閣を攻撃し、皇室が政争に利用された。

 しかし、昭和十四年に白鳥敏夫元イタリア大使と大島浩元ドイツ大使が両国が開戦したら「日本も参戦する」と勝手に約束した。これに対して、昭和天皇御自身が「出先の両大使がなんら自分と関係なく参戦の意を表したことは、天皇の大権を犯したものではないか」と怒られた。その時の平沼内閣は陛下の御意思を揉み消した。両大使も処分を受けなかった。「統帥権論争」が政治家らの政争の口実であった証拠といえよう。

 福沢諭吉翁は明治十五年に「帝室は政治社外のものなり。苟も日本国に居て政治を談じ政治に関する者は、其主義に於て帝室の尊厳と其神聖とを濫用す可らず」と警告に満ちた正論を述べている。「極右政党」が台頭し乱立した今こそ日本人が踏まえるべき事だろう。

 

今後の注意

 以上の事をまとめると、党内民主主義をしっかりと維持・確立する。

 「陰謀論」や流言飛語に乗らないよう冷静かつ客観的に考える。

 外国人政策の過激路線に流れることなく、実務的かつ現実的な外国人政策、日本国民のあり方を議論する。

 政敵の口封じに皇室の政争利用が生じないよう細心の注意と矜持を持ち続ける。

 文字にすれば実に簡単な事だが、人間、さらには大衆は感情を持った生身の人間だ。私を含めてこれらを守るのは難しいが、健全な日本の為に努力したい。

(しんぶん国民8月号)