私の見た大村リコール運動の実態 不正発覚にいたるまでと今後(藤島雄平)

リコール署名を呼び掛ける高須院長と河村市長

リコール署名を呼び掛ける高須院長と河村市長

 昨年8月25日より行われた、愛知県 大村秀章知事のリコール(解職請求)署名運動について、先日大きな動きがありました。さる5月19日、「愛知100万人リコールの会」の田中孝博事務局長らが地方自治法違反の容疑で愛知県警に逮捕されました。

 「あいちトリエンナーレ2019 表現の不自由展・その後」における不敬極まりない展示に端を発したこのリコール署名運動では、提出された約43万筆の署名のうち約8割が無効であることを愛知県選管が発表し、佐賀県でアルバイトを動員して署名が組織的に偽造されたとみられていることは、既に報道などでご存知の方も多いかと思います。

 しかし、署名偽造問題はこの運動の混乱ぶりを象徴する出来事ではありますが、氷山の一角にすぎないこともまた事実です。背景では一体何が起きていたのか。令和元年8月3日に、自ら「表現の不自由展・その後」の展示物を目の当たりにし、兵庫県神戸市よりこの運動に参加した私の体験から申し上げたいと思います。

 私が最初に大村リコール運動に関与し始めたのは、昨年8月28日のことでした。署名収集の受任者を募る葉書をポスティングしているが、人手が足らないと聞き現地に赴きました。事務局を訪れた時から違和感を覚えました。署名の意義が伝わるようなチラシなどが一切用意されておらず、ただの個人情報収集と誤解されかねないような葉書しかないこと。

 そして、配布場所を具体的に指示されなかったことでした。有志がネット上で公開していたチラシと共に、未配布の地域であって欲しいと願いつつ闇雲に配りました。そんななか、同志たちと情報交換を始めたところ、25日より署名期間が始まっているにもかかわらず、受任者登録した県内の有権者のもとにはまだ署名用紙が届いておらず、仕方なくまだポスティングをしていたのです。9月に入って漸く署名用紙が届いたが、委任状欄に記載された住所や生年月日に誤記載が多発しているとのことでした。再発行を依頼しようにも、メールへの返事もなければ、電話もろくに繋がらない。日に日に違和感が不信感に変わっていきました。

 そのような混乱の中で、受任者たちが街頭等で署名を集め始めましたが、署名できる場所の情報も事務局からは十分に発信されていませんでした。有志のまとめサイトができ、情報集約に携わる中で、37名の請求代表者の殆どが名義だけの存在に過ぎず、実際に活動していたのが僅か10名余りであることが判明しました。愛知県で長年活動してこられた諸先輩方が名乗りを上げても、請求代表者の選考から弾かれていたという話も漏れ伝わり、一体この運動は何なのかと驚愕したのです。

 このような状況に対する不満の声は、すぐに各方面から噴出しましたが、事務局が真摯に対応することはありませんでした。「愛知100万人リコールの会」の高須克弥会長に電話で直談判する機会もありましたが、「私は田中事務局長に騙されていてもいい」といった投げやりな発言からは、事態収拾への意欲は感じられませんでした。そして、11月4日の署名簿仮提出の日(一部自治体をのぞく)を迎えることになるのです。

 11月4日、この日は混乱の極みでした。事務局が手配した会場で各署名簿に番号が付され、64ある市区町村へと運ばれました。署名簿の枚数を示す簿冊番号と、署名の総数を示す署名番号の両方を付番する必要がありますが、後者が欠落しており、このままでは提出できないことが判明したのです。自治体別の仕分けミスも重なり、多くの人たちが各地へ奔走し、当日深夜や翌日まで補正作業が行われたのでした。そうすると、同一筆跡、同一指印、同一町名、番号順に並んだ地番など、不審な署名簿が数多く明るみになったのです。そして11月7日、高須会長の体調不良を理由に、事務局は「署名運動の停止」を宣言したのでした。

 このとき、一部の自治体では選挙の関係により、まだ署名が継続中であり、岡崎市では先月の10月19日より開始したばかりでした。私は開始前日より岡崎入りし、今までの混乱で得た教訓をもとに運動を再構築したいという思いで署名収集を日々お手伝いしていました。その私にとって、「署名運動の停止」は青天の霹靂でした。このままでよいのか、と自問自答しました。

 しかし、法の不備もあり、このまま署名を継続することができると判明したときには、続けるしかないと確信しました。それが運動としてのけじめであると感じたのです。そして同時に、この不正疑惑の全容を我々の手で少しでも明らかにしたいと決心したのです。

 11月26日から12月17日まで、請求代表者3名が64の市区町村選管を全て訪れ、署名簿を一枚一枚調査しました。同時に愛知県警および各所轄署、名古屋地検特捜部への刑事告発の準備手続を受任者らと共に行いました。この調査の過程で、一部の自治体においては不正な署名簿が9割以上あることも判明しました。一方では署名を継続している最中ということもあり、こういった状況を明らかにするのは戸惑いもあったのですが、我々が真摯にこの運動に取り組んでいることを示すことにも繋がると感じ、12月4日、愛知県庁において記者会見を行いました。

愛知県庁での記者会見

愛知県庁での記者会見

 12月19日、岡崎市における署名収集が終わり、長い日々に区切りを打つことができました。一方的な「停止宣言」の余波などもあり、決して満足と言える結果ではありませんでしたが、不敬展示を容認し続けた知事の姿勢を糺すために、少しでも問題提起ができたのではないかと感じています。

 その後、県選管による異例の調査と刑事告発、愛知県警による捜査を経て現在に至ります。有効筆数が7万筆余りという結果に驚きを隠せないのは事実ですが、受任者による情報開示請求の結果、提出されたはずの署名簿が存在しないといった声が次々に上がっていることもあり、事態の全容解明には今しばらく時間がかかりそうです。ただ確実なのは、「表現の不自由展・その後」や知事の容認姿勢を問題視し、本気でこの運動に取り組んだ方々が数多くいたこと、そしてその方々の努力や思いが踏み躙られたということです。

 「表現の不自由展・その後」については、7月に名古屋市の市民ギャラリー栄で再び開催されることが明らかになっています。リコール署名運動で経験した様々な試練や逆境を乗り越え、抱き続けてきた思いを決して無駄にすることなく、これからも諸問題に取り組んでいきたいと思います。

(愛知県 藤島雄平)