中共の影響が増大する中華街 「国慶節」口実に示威活動が激化

日本国民党情報宣伝局長 金友隆幸

 日本全国で在日中国人の人口が増加の一途をたどっている。それにともない、幕末から明治時代にかけて形成されてきた中華街でも異変が起きている。
 
 神戸、長崎と並び、日本三大中華街の一つである横浜中華街では、街の行事に中国大使館が関与するものが増えている。
 
 もともと横浜中華街は、中国出身者らの横浜華僑総会が取り仕切っていたが、昭和五十一年に中華民国(台湾)を支持する側と、中華人民共和国(大陸)を支持する側に分裂し、対立を続けていた。
 
 秋になると横浜中華街には、中華民国の「雙十節」を祝うポスターと、中華人民共和国の「国慶節」を祝うポスターが競うかのように貼られ、台湾海峡の緊張が、そのまま横浜で起きている観がある。
 
華僑への影響強める中国大使館
 
 それがここ十数年の間に、中共側の横浜華僑総会が、中国大使館の影響を受けて活動を活発化させている。
 
 最も顕著なのは、中華人民共和国の建国を記念する十月一日の「国慶節」だ。
 そのあらましを、横浜華僑総会(中共)刊行の機関紙「横浜華僑通訊」をもとに見てみよう。
 
 従来、横浜華僑総会(中共)は、「国慶節」には、中華街のホテルで祝賀会を開催し、中華街の公園で、露店と舞踊や演奏をするという穏やかなものだった。
 
 それが徐々に変化を見せ始めるのが、平成十八年からだ。
 
 横浜華僑総会(中共)は、「慶祝中華人民共和国成立五十七周年」を祝う「国慶節慶祝游行」(祝賀パレード)を約三十年ぶりに横浜中華街で開催した。巨大な五星紅旗を持って赤いシャツを着た華僑たち二百人が行進している。
 
 「三十年ぶり」というのは、横浜華僑総会が分裂した昭和五十一年以来ということだが、この年は中国の周恩来、毛沢東が相次いで亡くなり、中国国内が大きな政治的混乱に入っていた時期だ。
 
 こうした点からも中国本国の政治的出来事が、在日華僑社会に少なからぬ影響を及ぼしている事が垣間見える。
 
 祝賀式典には、中国大使館の総領事、地元神奈川県の政治家らが参加している。
 
留学生らも動員
 
 平成二十一年の国慶節祝賀パレードには、三年前の四倍となる八百人もの中国人が参加している。これは全日本中国留学生学友会を動員したものだ。
 
 この留学生学友会は、前年の平成二十年四月に、長野県でおこなわれた聖火リレーの際に中国大使館に動員され、五星紅旗で街を埋め尽くし、五輪批判派に暴行をふるった集団だ。
 
 平成二十年に中国大使館が、長野聖火リレーで動員した中国人留学生たちを、その後もこうした行事に動員している様子がわかる。
 
 平成二十三年の国慶節祝賀パレードでは、中華学校の女子生徒たちに中国国内の少数民族の伝統衣装を着せて行進させている。これはチベット、ウイグル問題に対して、国際的非難が高まったことへのアリバイ的対応と見られる。
 
強まる政治色と動員と民族主義
 
 平成二十四年八月には中国人活動家が尖閣諸島に不法上陸し、日本側に逮捕されたことから中国各地で反日暴動が発生した。これを受けて横浜中華街での「国慶節祝賀パレード」も「昨今の情勢に鑑み中止」となっている。
 
 平成二十五年に習近平が国家主席に就任すると、中華街の「国慶節」の様子は一段と政治色が強まる。
 
 平成二十七年には、「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利七十周年記念式典」が北京で開催され、横浜華僑総会会長、横浜山手中華学園理事長らが招待され出席し、習近平の演説を聞き、軍事パレードを観覧している。
 
 平成二十九年の国慶節の屋内式典では、「中国国歌『義勇軍行進曲』が高らかに会場内に響きわたった」との記述が初めて出て来る。
 
 「義勇軍行進曲」は、昭和十年制作の抗日映画「風雲児女」の主題歌だった。
 
 歌詞も「いざ立ち上がれ 隷属を望まぬ人々よ! 我等の血と肉をもって 我等の新しき長城を築かん 中華民族に迫り来る最大の危機 皆で危急の雄叫びをなさん」「敵の砲火に立ち向かうのだ! 進め!進め!進め!」といったものだ。
 
 もちろん「敵」とは「日本」に他ならない。
 
 さらにこの年の国慶節式典の挨拶では、習近平の唱える「一帯一路」が繰り返し登場し、中共・習近平色の非常に強い行事になっている。
 
対日・対台湾のデモンストレーション
 
 令和元年の「国慶節祝賀パレード」には華僑ら千五百人が参加し、パレード再開当初である平成十八年の約八倍もの規模に膨れ上がっている。
 
 令和四年には、「パレード出発にあたり、国歌『義勇軍進行曲』を全員で大合唱」とあり、ここで初めて「義勇軍行進曲」を街頭で歌って行進した事が記されている。
 
 「中華人民共和国万歳!」と叫び、「国旗護衛隊に囲まれた巨大な『五星紅旗』」が進む。完全にデモ行進、示威行為そのものだ。
 
 しかもこの式典では、登壇した中国公使が「日本にいる多くの在日僑胞は祖国と共に呼吸をし、運命を分かち合い、祖国統一を擁護」する存在だと演説の中で二度に渡り強調している。「祖国統一」とは「台湾併合」を意味する。
 
 令和五年には、参加者約千人が、同じ赤色シャツを着て軍隊のように整列して五星紅旗を掲げている。中国共産党の影響度、政治性、民族主義的性格、組織性、動員人数などが年を重ねるごとに強まっており、空恐ろしいものを感じる。
 
 爆竹や銅鑼が鳴り、獅子舞と龍が踊り、日本人と中国人が共に楽しんだ、昔の牧歌的な中華街の祭礼ではない。
 
 これはもはや、純粋な華僑の行事ではなく、中国共産党が、在日華僑を利用した、日本社会と在日台湾人社会に対する威嚇、デモンストレーションといっても過言ではあるまい。
 
大陸との一体感
 
 かつての華僑は「落地生根」と言い、移住した土地に根をおろして暮らす、その社会に溶け込むことを合い言葉に世界中に移り住んで生活していた。
 
 しかし、通信と交通の便が極めて発達した現代においては、華僑がその社会に溶け込むのではなく、本国(中共)の強い影響を受け活動する。
 
 横浜華僑総会(中共)は、会の業務として「中国パスポート・中国ビザなどの代行申請業務」をあげている。
 
 もはや、ただの同郷会や親睦会ではない。それほどまでに大陸、中国大使館との一体感が強まっている。
 
 中共が華僑を使い、日本国内で組織動員のもとに示威活動を繰り返し、その内容を激化させている事に対して、日本人は警戒を怠ってはいけない。
 
 こうした動きは、横浜中華街だけではなく、神戸や長崎などの古くからの中華街や、あるいは池袋や川口、稲毛海岸など、中国人集住地帯で起き得る。今後とも動向を注視すべきだろう。