トランプ政権復帰は日本の好機か危機か

日本国民党代表 鈴木信行

 トランプ氏が大統領選挙に再選されることを、日本の保守派の中には歓迎している者たちがいる。正直、他国の大統領を応援するとはいかがなものかと遠目に見ている。トランプ大統領が米国ファーストを掲げれば、日本にも大きな負担を求めてくることは、前政権時にもあったことだから充分に予測しておかなければならない。
 
 トランプ政権復帰を逆手に取れば、自主防衛体制構築へ前進できるとの考えを模索するべきだ。日本の核武装まで進展できれば、トランプ再選も歓迎するところだ。
 
 米国が台湾防衛に距離を置けば、米軍が主張する二〇二七年に中国が台湾に侵攻するというシナリオが実行されることになる。筆者は中国の台湾への軍事侵攻はないと言ってきたが、それは米国が介入するとの前提があったからだ。
 
 米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は、令和五年一月九日「次の戦争の最初の戦闘」と題した報告書を公表した。三年後の令和八年に中国が台湾に侵攻するという設定で軍事シミュレーションした。
 
 シミュレーションの結果では中国軍の侵攻は、四十数通りのシミュレーションの結果すべて失敗する。だが、米国や日本側に艦船、航空機、要員の甚大な損失が生じるとする報告書を公表している。台湾防衛に「ウクライナ・モデル」は通用しない。このシミュレーションの結果がある限りは、中国が台湾を侵攻する可能性は低いと考えられる。
 
 逆にトランプ復帰で米国が台湾への軍事介入の可能性が低下すれば、中国の軍事侵攻の可能性が高まるのだ。
 
台湾侵攻と日本の被害
 
 注目すべきは日本の役割と被害だ。台湾の地上軍は上陸拠点の中国軍を急襲し、「日本の自衛隊によって強化された」米国の潜水艦・爆撃機、戦闘機などが上陸船団を無力化させる。
 
「中国は日本の基地や米軍の水上艦を攻撃するが、結果を変えることはできない」とし日本が攻撃を受ける事態に触れている。米国と日本は米空母二隻を含め艦船数十隻、航空機数百機、要員数千人を失うと、シミュレーションでは予測している。
 
 報告書はウクライナとは違い、「米国が台湾を守るならば米軍は直ちに直接的な戦闘に従事する必要がある」と強調している。同時に、在日米軍基地からの米軍の展開は「介入の前提条件」で日本は「台湾防衛の要となる」と指摘している。日本は好むと好まざるとにかかわらず戦闘に巻き込まれるのだ。日本に甚大な被害が出ると覚悟すべきだ。
 
台湾侵攻を止める方法
 
 日本が戦争を避けるためには、中国に台湾侵攻は無駄だと悟らせる以外に方法はない。そのためには海洋国同士が連携し、軍事力を強化する以外にはない。台湾とフィリピンとの軍事協力の深化が必要なのだ。
 
 日本が望んで軍事力を強化するのではない。東アジアの趨勢がもたらす結果なのだ。日本が現実に対応しなければ、国民の富も国民の命も維持することが出来なくなる。
 
 トランプ政権となれば、米国が日本の防衛力増強と防衛負担をより強く求めてくる。かつての在日米軍による「瓶の蓋論」はなくなると準備すべきだ。この期に乗じて日本が普通の国に脱皮する好機とするべきだ。さらに防衛予算増は米国企業の兵器を買うだけに非ず。国産兵器を開発するために使うべきだ。
 
米中代理戦争の様相
 
 現在フィリピン国内は、米国追従のマルコス大統領と、親中派のドゥテルテ副大統領・ドゥテルテ前大統領親子の米中代理戦争のように、両者がにらみ合っている。ドゥテルテ前大統領は、地盤であるフィリピン南部のミンダナオ島独立まで口に出している。
 
 かつて米国はスペインとフィリピンを争い奪い取り植民地にした。日本と米国の戦争では最大の激戦地となったのがフィリピンだ。現在は米国と中国でフィリピンを取り合っている。フィリピンと台湾の間のバシー海峡は地政学上のチョークポイントであり、シーレーン上の要害の地がフィリピンなのだ。
 
 つまり台湾と同じく米中衝突の危険性が高いのはフィリピン近海なのだ。フィリピンは反撃能力がない。米国が中国を挑発するとしたらフィリピンが戦闘地域となる。台湾の場合は必ず反撃する。台湾侵攻となれば、中国は後戻りできない状況まで進展せざるを得ない。米中とも必勝態勢がなければ、軍事衝突は避けたいと判断するだろう。
 
 そのフィリピンに中国が手を出せないようにするために、米国は在フィリピン基地を増強している。フィリピンを押さえれば台湾に手出しできなくなるからだ。逆さの世界地図を見ると、大陸から見て日本列島とフィリピンが要害の地であることが判明する。
 
 米国と中国の間で日本が翻弄されないためにも、フィリピンと連携して日本の海軍力強化を図る必然性が高まっているのだ。
 
 トランプ再選を日本の好機と考えるためには、日本が核武装を実現する好機と捉える以外にはない。