ウクライナに見る米国戦略と台湾の行方とアジア

日本国民党代表 鈴木信行

 

 日本は大東亜戦争敗戦後に、米国の占領下から独立したが、現在でも米国の強い影響下にある。日本が米国支配から解き放たれるには、大東亜戦争に至る歴史は全て悪だったという、間違った敗戦国史観を払いのける必要がある。
 
 日本が明治期に朝鮮半島統治に乗り出したのは、欧米列強のパワーゲームの中で生き残るためだ。国際政治と歴史を善悪で見るのは間違いだ。善悪判断で見れば目が曇る。従って現代のロシアとウクライナ戦争を、善悪で判断するのも間違いなのだ。
 
 国際政治の中で判断する基準は、自国の国益と生き残りをかけた損得勘定だ。正義とは一面的であり、日本から見る「テロリスト」安重根と、韓国から見る「英雄」安重根は一八〇度見方が違って当然なのだ。この前提なくして国際交流などできない。
 
ロシアを挑発し続けた英米
 
 ロシアのウクライナ侵攻はいつまで続くのか。現状では泥沼で続くと見られる。ウクライナの大攻勢が不発となり、米国のバイデン政権から共和党に政権交代があれば、ウクライナ支援は「息切れ」もあり得る。
 
 中国が台湾を諦めないのと同様に、たとえ停戦してもロシアはクリミヤを手放さず、ウクライナ侵攻を諦めないと考えておくべきだ。
 
 米国はロシアを追い込むために、ソ連崩壊後に欧米派のウクライナ政権を支援してきた。西側の防衛ラインをロシアに向けて東へと前進させてきた。プーチンは合意違反とみなして米英批判を繰り返してきた。ウクライナ東部ではロシア系住民は迫害され、年金さえ支払いを止められていた。
 
 かつて大東亜戦争前の日本が、先に手を出すように米国が経済封鎖をして追い込んだのと同じく、ウクライナに侵攻するまで、ロシアを挑発してきたのは米国と英国だ。
 
 実は同じ構図がアジアにも存在する。東シナ海の台湾と南シナ海のフィリピンだ。両国の間のバシー海峡は、日本のシーレーンだから他人事では済まされない。
 
台湾侵攻
 
 ここで大きな命題がある。中国は台湾を侵攻するか。その時に米国は台湾を守るか。
 
 米国は新型コロナウイルスで死者百万人を超えた。米国人はこの恨みを忘れていない。新型コロナウイルスは中国湖北省武漢市から発生したとされる。中国当局が隠蔽したために、中国人がインバウンドで世界中にばらまいた。米国はこの恨みを必ず晴らす。
 
 平成の失われた三十年で日本経済は米国により叩きのめされた。同じ事が中国に対しても実行される。米国の対中国との経済戦争も長期戦となる。新たなる冷戦だ。先端半導体の対中国輸出禁止、AIなどの最先端技術も中国に渡さなければ、中国は技術革新リノベーションが出来ずに必ず行き詰まる。
 
 中国は日本のように黙って廃れはしない。中国経済に力があるうちに台湾侵攻を実行するか否か。中国経済の絶頂期は十年以内に終焉を迎えることは必定だ。
 
 米国には中国による台湾侵攻に二つの仮説が存在する。令和九年(二〇二七年)に中国が台湾に侵攻する「二〇二七」派だ。米軍はこの派に属し、中国軍の侵攻能力増強に合わせて危機感を募らせている。政策論としてはこれが正論だ。東南アジア地域での防衛力の均衡が中国に傾くからだ。
 
 もう一方は中国軍の早期侵攻はしないと見る懐疑派だ。鈴木信行はこちらを重視して見ている。
 
 米国ワシントンにある戦略国際問題研究所CSISは、中国軍の台湾侵攻を二十四通りの図上演習で分析した。図上演習の結果は、すべて中国の台湾侵攻は失敗している。だが、米軍も日本も大きな損害を被ることになる。台湾侵攻があれば日本は大きな損害を受け、海上自衛隊の艦船が沈み隊員が死ぬのだ。
 
 中国軍敗戦、この結果がある限り、中国は台湾に侵攻しない。戦わずに台湾を呑み込む戦略をとるだろう。すでに台湾は北京語が主語の国になっている。文化侵略は完成済みだからだ。
 
アジアで新たな核武装国家が
 
 韓国にも核武装の可能性が高まりつつある。プーチンはウクライナ戦争で核兵器を使うか使わないかを、EUでは大きな議論となっている。
 
 プーチンが戦術核を使用した場合にNATОは核兵器で報復するのか。NATОが報復しなければ、戦術核なら核兵器使用ができるという現状変更を認めることとなり、核兵器使用のタブーは終焉となる。英国とポーランドは核兵器には核兵器で反撃すべきと主張するが、EU最大の経済大国ドイツは消極的意見だ。
 
 ウクライナで戦術核使用が容認されたら、日本と韓国を覆う米国の核の傘の綻びが大きな穴となる。
 
 日本や韓国に対して戦術核兵器で北朝鮮や中国から恫喝された場合、米国から戦略核兵器で報復できない状況を日本も想定すべきだ。日本が防衛力で足りないものがある。それはミサイルと核兵器なのだ。
 
 韓国に潜水艦搭載のSLBМを配置したとしても、日本を守るために在日米軍が核兵器を使用するか否かは答えがない。日本も戦術核兵器を保有し、中国・ロシア・北朝鮮とのミサイルギャップを埋める用意をすべきだ。
 
いつも戦場となるフィリピン
 
 フィリピンは台湾以上に危険な状況にある。フィリピン近海が米中衝突する戦場となるストーリーだ。だがフィリピンは米軍基地を拡大して中国に対抗している。フィリピン単独で中国に反攻できない。反撃能力を有しないフィリピン近海で、米軍が挑発して中国軍が報復する仮説だ。台湾と違い戦局は拡大しない。
 
 台湾を海上封鎖してバシー海峡が封鎖されれば、日本の貿易に甚大な損害が出る。日本が防衛力強化に努めなければならない実情があるのだ。
 
 再びアジアで日本が果たすべき役割が大きくなった。日本の防衛力強化が、東シナ海と南シナ海の安全保障に大きな役割を果たし、日本経済と自由貿易のために多大な貢献をする。
 
 日本が再びアジアに進出する、好機到来の季節でもある。防衛力を背景とした、大東亜共栄経済圏である。三十年後の米中再接近に備える、日本の国家戦略もここにある。